第10章 偶然による進化
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進化と偶然
このために生物の進化には大きな偶然性が入り込むことになった
親が持つ2つの遺伝子のうち、どちらが子どもに伝わるかは偶然による
父親(あるいは母親)が2つ持っている対立遺伝子のうちの、どちらが子どもに伝わるか、という偶然によって、ある遺伝子が増えたり減ったりすること
子供をたくさん産めば速く進化する
生物が自然選択によって進化するときは、子どもの数が多いほど、進化が早く進むことが知られている
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ある男の遺伝子aに突然変異が起きて、頭がよくなる遺伝子Aが進化した
その男の遺伝子型はaaからAaになり、彼は頭がよくなり、彼は人生におけるあらゆる競争で勝利し続けた
普通の女性(aa)と結婚し、子供が生まれた
子どもの遺伝子型がAaになるかaaになるかは50%ずつ
この夫婦に子供が生まれて一人がAaで一人がaaだったとする
二人の子供はそれぞれ結婚して、それぞれの家庭で二人ずつ孫が生まれた
Aa, aa, aa ,aa
つまり、父親の世代でも、孫の世代でもAaは一人しかいない
Aaが増えていかない理由は(総人口が一定だとすれば)過剰繁殖をしていないから
すべての夫婦が子供を4人ずつ産む場合
親の世代では1人、子の世代では2人、孫の世代では4人と順調に増えていく
しかしこの場合、すべての子どもが大人になれない
人口は一定なので、平均的に考えれば、一組の夫婦が産んだ中で、大人になれるのは二人だけ
自然選択で有利な個体が増えていくということは、裏を返せば不利な個体が死んでいくということ
自然選択では、子供を多く生むほど進化速度が速くなる
単純化のため人口を一定としたが、人工が増える場合でも減る場合でも基本的には同じ
とにかく産んだ子どもが全員大人になれば、自然選択は働かない
たとえ有利な個体がいても、増えていくことはできない
有利な個体が増えていくためには、大人になる前に死ぬ子どもがいなければならない
不利な個体が減るので、相対的に有利な個体が増えていく
つまり、正確に言えば、自然選択には有利な個体を増やす力はなく、不利な個体を減らすことしかできない
進化速度が早すぎる
それらのデータを見ると、タンパク質や遺伝子の進化速度が異常に速い
たとえば、イギリスの集団遺伝学者J・B・S・ホールデン(1892~1964)が推定したDNAの進化速度(DNAの塩基が変化する速さ)と比べると、その数百倍にも達する この速い進化速度を自然選択で説明しようとすると、生物は子供をたくさん産まなくてはならない
しかし、そんなことは不可能
妙なことはもう一つ、タンパク質に多形とよばれる現象がたくさん見つかり始めたこと 複数の形質が同種の生物の集団内に共存すること
1960年代まではこのような多形現象はきわめて珍しいことだと考えられていた
このように複数の対立遺伝子があっても、不利な対立遺伝子は自然選択によって速やかに除かれ、最も有利な対立遺伝子が1種類だけ残る
現在殆どの遺伝子は、こうして1種類だけが残っている状況だと考えられるので、多形現象は少ないと考えられていた
ところが、タンパク質が簡単に調べられるようになると、次ついにタンパク質の多形が見つかり始めた
当時報告されたショウジョウバエのタンパク質では、多形性を示すものが約30%に達した ヒヨクガイでタンパク質の多形現象を調べたことがあるが、約40% もっともタンパク質の多形が見つかる前から、それと矛盾しない意見を持っていた研究者もいた
ヘテロ接合のほうが有利ならば、複数の対立遺伝子が自然選択によって残されるはず
1960年代になってタンパク質の多形がたくさん見つかると、これはドブジャンスキーの意見を支持する証拠の用に見えた
しかし、どうもおかしい
遺伝子型がAaの両親から4人生まれたとする
確率的にAA:1, Aa:2, aa:1
ヘテロ接合の2人は大人になるまで生きられる
つまり、現状を維持するためには、子供を4人産まなくてはならない
遺伝子型がAaBbの両親が子供を産む場合
ヘテロ接合AaBbの子供を二人産むためには今度は8人産まなくてはならない
もし多形を示す遺伝子が100個あれば、マンボウ並みに子供を2億人生んでも全然足りない
自然選択で多くの遺伝子をヘテロ接合にしておくには、ものすごくたくさんの子供を産まなくてはならない
ドブジャンスキーが考えたように、多くの蛋白質が多形性を示す原因を自然選択に帰するのは無理 自然選択が働くためにはたくさんの個体が死ななくてはならない
しかし生物はいくらでも子どもを産めるわけではない
過去には自然選択万能主義というものが幅を利かせていた時代もあった
しかしそういう時代を終わらせる論文を、50年ほど前に木村が発表した
遺伝的浮動の重要性
木村はこれらの自然選択では説明できない現象が、遺伝的浮動を考えることでうまく説明できることに気がついた
進化速度が速いことも、タンパク質に多形が多いことも、両方とも説明できる
ABO血液型の多形が存在するのも遺伝的浮動のせいだ
血液型の間にはほとんど有利や不利がないので、それぞれの血液型の対立遺伝子が、遺伝的浮動によって増えたり減ったりしている
このように進化においては、自然選択だけでなく、遺伝的浮動も重要な働きをしている
花の色を青くする遺伝子Aと花の色を白くする遺伝子aがあったとする
青い花は昆虫に見つかりやすく、花粉をたくさん運んでもらえる
白い花は不利になり、自然選択でどんどん減っていく
ところが、自然選択は、対立遺伝子aを減らすことができるが、なくすことはできない
青い花が増えて白い花が減ると、対立遺伝子Aが増えて、aが減る
するとaはヘテロ接合Aaの形でしか存在できなくなる
そうするとすべての花の色は青くなり、自然選択は働かなくなる
自然選択は花の色という表現型にしか働かないので、遺伝子型AAとAaを区別することができない
こうなると、少なくなったとはいえ、aはなかなか無くならない
私達ヒトにおいても、不利な遺伝子が潜在遺伝子としていくつも存在しているのはこういう理由による
不利な潜性対立遺伝子をなくす力があるのは遺伝的浮動だけである 自然選択だけでは不利な潜性対立遺伝子をなくすことはできない